松の煤

寒い冬の日、おばあさんの家の傍で、男が中をうかがっていた。

犬はおばあさんが茹でたかぼちゃを食べていた。

気配を感じた犬は、突然、隣の座敷へ走ると、まるで爪を研ぐように畳をめちゃくちゃに引っ掻き始めた。

「あらあら、急にどうしたんだい?これじゃ布団が敷けないじゃないか。困ったねぇ。」

すっかりささくれた畳を見たおばあさんは、敷物を探しに二階へ上がった。

部屋にナイフとガムテープを持った男が侵入してきて、犬を見て一瞬ひるんだ。

犬は男に向かって吠えているようだった。

「なんだ声が出ねぇのか。」

男は座敷の箪笥を開けては中を漁り始めた。

金目の物が見つからず、徐々に焦った。

犬が男のズボンの裾を噛んで仏壇の方へ引っ張った。

「賢いな、仏壇にあるのか?」

男は仏壇の奥の引出しを開けようと、写真立てを手に取った。

そこには丸刈りの男の子が笑っていた。

その色褪せた写真に、昔野球少年だった頃の自分を重ねた。

犬は鼻先でお供えの皿を押し出した。

男は黒い手袋を脱ぐと、皿に乗った握り飯に手を伸ばした。

握り飯はほんのりあたたかかった。

男は母親を思い出し、鼻をすすりながら、握り飯を食べた。

「おやおや、運動会でもしたのかい?全部ひっくり返してしもうて。」

おばあさんは敷物を下ろして見渡した。

散らばった服の中に、息子の赤いセーターを見つけた。

「握り飯も食べたのかい?……きっと暴れて腹が減ったんだねぇ。」

しっぽを振って登ってくる犬を、おばあさんは笑って撫でた。

その夜、おばあさんは息子のセーターをほどいて、犬用の襟巻きを編んだ。

ストーブの上のやかんは、シュンシュンと息をしている。

犬はその音を聴きながら眠り、外では雪が男の足跡を隠していった。